1 借地権
借地権も財産権として当然に相続の対象になり、遺産分割協議の対象になります。被相続人の財産上の権利義務を相続人がそのまま受け継ぐことになりますから、借地権を相続することについて,地主の承諾は必要ありません。
相続人としては、それまでの借地契約について貸主(地主)に名義を書換えてもらうことで足ります。相続により当然に借地権を受け継いでいますから、名義書換料などを支払う義務はありません。実際には、とくに名義書換えをせずに、次の更新時に相続人名義にすることも多いようです。
2 借家権
居住用建物の借家権も相続の対象となり、遺産分割協議の対象となります。しかし、公営住宅を使用する権利については、遺産の対象とはならないというのが判例です。
公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって、そのために、公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し、政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居者を決定しなければならないものとした上、さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨、事業主体の長については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨を規定しているのである。以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである(最判平2.10.18)。 |
3 借家権相続と事実上(内縁)の配偶者の保護
事実婚(内縁)の配偶者は相続人とはなりません。しかし、居住用建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合、その当時、婚姻又は縁組の届出をしていなくても、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継できます(借地借家法36条1項)。
しかし、相続人がいる場合には借家権は他の相続人に相続されてしまいます。次のような事実婚の妻(内縁の妻)を保護した最高裁判決もあります。
家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない(最高裁判決昭和42年2月21日) 。 |
内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情があるときは、右請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである。(最高裁判決昭和39年10月13日) |