相続人による遺産たる預金の法定相続分相当額の払戻請求に対し金融機関がこれを拒否できる場合
判例は、預金等の金銭債権は、遺産分割協議を待つことなく、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属するものとしています。したがって、各相続人は、遺産分割協議を待つことなく、自己の法定相続分に相当する部分について払い戻しをすることは許されます。
もっとも、遺産分割調停では、相続人から預金債権を分割の対象としないという積極的な申出がない限り、預金債権を遺産分割の対象に含めて手続きが進められます。
そこで、下記裁判例では、遺産分割協議の対象に含めることについての合意が成立する余地がある間は、その帰属が未確定であることを理由に請求を拒否することも可能というべきである、としています。
預金返還請求事件
東京地裁平成九年(ワ)第一四六五八号
平成9・10・20民事第一部判決
金銭その他の可分債権については、遺産分割前でも、同法四二七条の規定に照らし、各相続人が相続分の割合に応じ独立して右債権を取得するものと解するのが相当であり、相続財産が被相続人の信用金庫に対する預金払戻請求権である場合も、右債権と同様の金銭債権であり、別異に解すべき理由はない。
しかしながら、被相続人が生前有していた可分債権も、共同相続人全員間の合意によって、不可分債権に転化し、共同相続人らによる遺産分割協議の対象に含めさせることも可能と解されるので、共同相続人から右可分債権の請求を受けるべき債務者としては、右債権を遺産分割協議の対象に含めることについての合意が成立する余地がある間は、その帰属が未確定であることを理由に請求を拒否することも可能というべきである。